TRIZ 40の発明原理ギャラリー
〜全固体電池を例にしたアイデアのヒント集〜
過去の無数の発明に共通する思考の型「40の発明原理」。ここでは、各原理を「材料」「構造」「製造」の観点から、特に全固体電池の技術開発を例に解説します。
カードを眺めるだけで、あなたの課題解決のヒントがきっと見つかります。
分割
固体電解質と活物質をナノレベルで複合化し、イオン伝導パスと電子伝導パスを微細に分割して両立させる。
一枚のシートをセグメント化して複数のセルを並列に作り込み、一部に欠陥があっても全体が機能停止しないようにする。
大判の電極シートを製造後、レーザーでスクライブ(分割線入れ)し、後の工程で個別のセルに分割しやすくする。
分離
原料からイオン伝導を阻害する不純物(水分、有機物など)を徹底的に分離・除去する。
正極、負極、固体電解質層を明確に分離した構造にし、各層の機能を特化させる。
電極材と電解質材を混合した後、不要な溶媒成分を真空乾燥で完全に分離させる。
局所性質
活物質粒子の表面のみを、イオン伝導性の高い別材料でコーティングし、界面抵抗を局所的に低減する。
電流が集中する電極のタブ周辺の集電体のみを厚くし、部分的に抵抗を下げる。
電極シートを積層後、レーザーを用いて界面部分のみを局所的に焼結させ、密着性を向上させる。
非対称
正極と負極で、異なる結晶構造や粒径分布を持つ材料を用い、それぞれの特性を最適化する。
積層時に電極の向きを識別できるよう、電極シートの角を非対称な形状にカットする。
シート成形時に、上下のローラーの速度をわずかに変え、シート内部に意図的な応力分布を持たせる。
組合せ
イオン伝導性、電子伝導性、活物質の機能を併せ持つ複合粒子を設計・合成する。
正極・電解質・負極を一体化したバイポーラ電極を複数積層し、高電圧化と部品点数削減を両立する。
電極スラリーの塗布、乾燥、プレス工程を一つの連続した装置に組み合わせ、生産性を向上させる。
汎用性
異なる種類の活物質にも適用可能な、汎用性の高い固体電解質材料を開発する。
モジュール化されたセルを、用途に応じて直列・並列接続を変えるだけで、様々な電圧・容量に対応させる。
一つの製造ラインで、材料の配合比率を変えるだけで、エネルギー密度型と出力型のセルを作り分ける。
入れ子
多孔質のカーボン骨格の内部に、シリコンなどの高容量活物質粒子を内包させ、膨張を内部で吸収する。
セルをケースに入れ、そのケースをモジュールに入れ、モジュールをパックに入れるという階層構造で保護する。
部品搬送用のトレイを入れ子にできる形状にし、空トレイの保管スペースを削減する。
つり合い
正極と負極の容量バランス(N/P比)を最適化し、電池全体の性能と寿命を最大化する。
積層セルの膨張圧と、外部からの拘束圧をつり合わせることで、界面抵抗の増加を防ぐ。
ロール状の電極シートの巻き出し側と巻き取り側で張力(テンション)をつり合わせ、安定した搬送を行う。
先取り反作用
充放電時の体積変化を見越し、あらかじめセルに圧力をかけておき、膨張による性能劣化を抑制する。
電極層の内部に、膨張を吸収するためのバネのような構造を持つ材料を添加しておく。
焼結時に、後の冷却収縮で割れが発生しないよう、あらかじめ逆方向の応力を与えておく。
先取り作用
活物質と固体電解質を混合する前に、各材料を最適な粒径に粉砕・分級しておく。
固体電解質と活物質の界面に、イオン伝導を助ける緩衝層をあらかじめ形成しておく。
組み立て後に行う初期充放電(化成工程)で、安定した界面層を形成させておく。
事前保護
活物質粒子を、電解質との副反応を抑制する安定な薄膜で事前にコーティングしておく。
電極の端部や鋭利な部分を絶縁材で保護し、内部短絡を未然に防ぐ。
水分や酸素に弱い材料は、徹底的に管理されたドライルームやグローブボックス内で取り扱う。
等位性
電極内のイオン濃度分布を均一化し、リチウムの偏析やデンドライト成長を抑制する。
電極内の電位分布が均一になるように集電体の形状を最適化し、局所的な反応集中を防ぐ。
製造ラインの各装置の高さを揃え、シート搬送時のダメージや位置ズレをなくす。
逆発想
活物質粒子を固定せず、半流動的な電極(セミソリッド)にして、機械的応力を緩和する。
電極と電解質を混合したシートを積層するのではなく、多孔質体に電解質を含浸させる構造を考える。
シートを一枚ずつ積層するのではなく、折りたたんで積層構造を作る(Z-folding)。
曲面
活物質粒子を球形にすることで、充填密度を高め、応力集中を緩和する。
電極の角部を丸い形状(R形状)にし、応力集中や電界集中を防ぐ。
ロールプレスを用いて、電極シートを連続的に加圧し、均一な厚みと密度を実現する。
可変性
充放電による体積変化に柔軟に追従できる、高弾性のバインダー(結着剤)材料を使用する。
外部からの圧力に応じて、電極-電解質間の密着性が動的に変化する機構を取り入れる。
製造条件(温度、圧力)をリアルタイムで変更し、製品の特性を動的に制御する。
アバウト
完全に均一な混合が難しい場合、導電助剤を理論値よりわずかに多く添加し、導電パスを確実に形成する。
対極(例:負極)の面積を作用極(例:正極)より少し広く設計し、リチウム析出などの副作用を防ぐ。
電極の塗工幅を有効領域より少し広めに設定し、裁断時の位置ずれマージンを確保する。
他次元移行
活物質を2次元シート状ではなく、3次元的な網目構造を持つ多孔質カーボンに担持させる。
電極を2次元平面で積層するだけでなく、3次元的にインターロックする構造にして界面剥離を防ぐ。
インクジェット印刷や3Dプリンティング技術を使い、3次元的な電極構造を直接形成する。
機械的振動
超音波振動を利用して、スラリー中の凝集した粒子を均一に分散させる。
(直接的な応用は少ないが、振動による非破壊検査は有効)
超音波溶着を用いて、金属製の集電タブや端子を高速・低ダメージで接合する。
周期的作用
パルス状の電流で充電(パルス充電)し、イオンの拡散時間を確保して高速充電時の劣化を抑制する。
電極表面に周期的な溝パターンを形成し、イオンの拡散パスを最適化する。
複数のレーザービームを周期的に照射し、大面積のシートを高速で加工・改質する。
連続性
(直接的な応用は少ない)
(直接的な応用は少ない)
ロール・ツー・ロール方式で、電極塗工からプレス、裁断までを一つの連続したラインで中断なく行う。
高速実行
レーザー焼結など、極めて短時間で高温加熱することで、材料全体の変質を防ぎつつ界面だけを接合する。
内部短絡を検知した際、ミリ秒単位で回路を遮断する高速ヒューズを内蔵する。
ピコ秒やフェムト秒レーザーによる超短パルス加工で、熱影響をほぼゼロにして電極を裁断する。
禍転じて福と為す
充放電で発生するジュール熱(有害要因)を、低温環境下で電池自身を温めるヒーターとして利用する。
電極の膨張による応力(有害要因)を、電極間の密着性を高める力として積極的に利用する。
製造時に発生した規格外の電極シートを粉砕し、新しい電極の原料の一部として再利用する。
フィードバック
合成中の粒子の粒径をリアルタイムで測定し、目標値になるよう合成条件にフィードバックする。
参照極をセルに内蔵し、正極と負極それぞれの電位を監視することで、劣化状態を正確に診断する。
電極の塗工厚みをセンサーで監視し、結果を塗工ヘッドにフィードバックして厚みを一定に自動制御する。
仲介
活物質と固体電解質の間に、両者と親和性の良い別の材料(緩衝層)を仲介させ、界面抵抗を低減する。
異種材料からなる電極と集電体の間に、接着と電子伝導を両立するプライマー層を仲介させる。
焼結助剤を仲介させることで、より低温で固体電解質を緻密に焼き固める。
セルフサービス
電解質に特定の添加剤を加え、劣化した界面が自己修復するようにする。
電極内に、クラック発生時に染み出して亀裂を埋める修復剤入りのマイクロカプセルを分散させる。
製造装置に、異常を自己診断し、オペレーターにメンテナンス項目を通知する機能を搭載する。
代替
高価で希少なリチウムの代わりに、資源量が豊富なナトリウムを利用するナトリウムイオン電池を開発する。
液体電解質を、不燃性の固体電解質で代替し、電池の安全性を根本的に向上させる。
コストのかかる真空プロセスを、大気圧プラズマなどの安価なプロセスで代替する。
使い捨て
(直接的な応用は少ない)
電池の外装の一部を、メンテナンス時に交換可能な安価なモジュールにする。
高価な装置の洗浄を不要にするため、スラリーの混合容器などに安価な使い捨てライナーを使用する。
メカニズムの代替
機械的な混合の代わりに、電場や磁場を利用して粒子を配向・分散させる。
機械的な圧力センサーの代わりに、光ファイバーセンサーでセルの圧力分布を測定する。
機械式カッターの代わりに、レーザー(光)で電極シートを非接触で切断する。
流体作用
粉末材料を、空気の流れ(気流)に乗せて製造装置に供給する。
電解質を液体やゲル状にすることで、複雑な形状の隙間にも充填しやすくする(半固体・ゲルポリマー電池)。
油圧プレスを用いて、電極シートに均一で高い圧力をかける。
薄膜利用
原子層堆積法(ALD)を使い、活物質粒子の表面に数ナノメートルの均一な保護膜を形成する。
セパレータの代わりに、電極自体をイオン伝導性の薄膜でコーティングし、短絡を防ぐ。
真空蒸着により、集電体の上に直接、薄膜状の活物質を形成する。
多孔質利用
活物質粒子や固体電解質粒子を多孔質にし、イオンが内部まで浸透しやすくして反応面積を増やす。
電極活物質層全体を、イオンが通りやすいように最適化された多孔質構造にする。
材料にポロゲン(造孔材)を混ぜて成形し、焼成時にポロゲンを除去することで多孔質構造を作る。
変色
充電状態(SOC)に応じて色が変わる材料を電極に混ぜ、電池残量を視覚的に判断できるようにする。
異常な高温に達した部分が不可逆的に変色する示温ラベルをセルに貼り付け、劣化診断に役立てる。
混合プロセスで、2種類以上の材料が均一に混ざったことを色の均一性で判断する。
均質性
硫化物系固体電解質と、硫化物系正極活物質を組み合わせ、界面の化学的安定性を高める。
集電体と活物質層の間の密着性を高めるため、両者の材料特性(表面エネルギーなど)を近づける。
スラリー中で複数の粉末材料を均一に分散させるため、各材料の比重や粒子径を揃える。
排除・再生
使用済み電池を回収し、化学処理によって活物質を再生し、新しい電池の材料として再利用する。
充放電の過程で劣化した界面層を、特定の電気化学的処理によって除去・再形成する。
電極塗工で規格外となった部分を排除・回収し、再度スラリーの原料として利用する。
パラメータの変更
液体原料から固体の電解質を合成する(相のパラメータ変更)。
外部から加える圧力(パラメータ)を変化させ、固体電解質と電極間の界面抵抗を最適に制御する。
焼結工程で、温度と圧力(パラメータ)を精密に制御し、緻密でイオン伝導性の高い固体電解質層を形成する。
相変化
電解質材料を一度溶融させてから急冷(相変化)し、イオン伝導性の高いアモルファス(非晶質)状態を得る。
熱暴走時に融解して潜熱を吸収する相変化材料(PCM)をセル間に配置し、熱の伝播を抑制する。
スプレードライ法。原料溶液を高温雰囲気中に噴霧し、溶媒を蒸発(相変化)させて球状粒子を得る。
熱膨張
(直接的な応用は少ない)
熱膨張率の異なる材料を組み合わせ、温度変化によって電極間の圧力が最適になるように自己調整させる。
焼きばめ。ケースを加熱膨張させておき、積層体(セル)を挿入後、冷却収縮させることで強固に固定する。
高濃度酸素
酸化物系固体電解質の合成時に、酸素分圧を高めた雰囲気で焼成し、酸素欠損の少ない材料を得る。
(直接的な応用は少ない)
プラズマ処理などで酸素ガスを用い、材料表面を親水性などに改質する。
不活性雰囲気
金属リチウム負極や一部の固体電解質など、大気と反応しやすい材料は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で扱う。
電池セルを密閉する際、内部に不活性ガスを封入し、内部での副反応を抑制する。
高温での熱処理(アニール)を、窒素などの不活性雰囲気中で行い、材料の酸化を防ぐ。
複合材料
活物質、固体電解質、導電助剤を混合したものが電極(複合材料)そのものである。
絶縁性と強度を持つセラミックスと、柔軟性を持つポリマーを組み合わせた複合固体電解質で、安全性と加工性を両立する。
装置の部品に、セラミックスと金属の複合材料(サーメット)を使い、耐摩耗性と靭性を両立させる。
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